心臓血管外科

心臓血管外科診療科・部門・センター

診療科の概要

当院の前身である兵庫県立姫路循環器病センターは1981年(昭和56年)に日本で初めての循環器専門の自治体病院として開設され、当初より心臓血管病の診療を行ってきました。2022年に病院が統合されましたが、当科には40年以上の歴史があり心大血管手術は8,000件以上、末梢血管手術は4,000件以上の経験を有しています。
標準的な治療に加えて近年は低侵襲手術(MICS、ステントグラフト、経カテーテル的大動脈弁置換術)や弁形成術なども積極的に行っています。

対象疾患・手術

虚血性心疾患 冠動脈バイパス術、左室中隔穿孔閉鎖術、自由壁破裂修復術、左室瘤切除
弁膜症 弁置換術、弁形成術、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)
胸部大動脈 大動脈基部、上行、弓部、下行、胸腹部大動脈瘤、大動脈解離
胸部ステントグラフト 胸部大動脈瘤、大動脈解離、大動脈損傷、自作開窓型ステントグラフト(PMEG)
その他開心術 不整脈手術、心臓腫瘍、肺動脈血栓塞栓症など
腹部ステントグラフト 腹部大動脈瘤、自作開窓型ステントグラフト(PMEG)
末梢動脈疾患 閉塞性動脈硬化症、急性動脈閉塞症
その他末梢血管 下肢静脈瘤、動脈損傷、シャント手術など

手術実績

スタッフ紹介

  • 村上 博久

    むらかみ ひろひさ

    村上 博久

    診療科長・ 部長(手術調整担当)

    【専門領域】

    心臓血管外科 ・血管外科

    【学会専門医・認定医・その他】

    日本心臓血管外科学会 専門医・評議員 心臓血管外科専門医認定機構 施設修練指導者 日本外科学会 専門医・指導医 日本脈管学会専門医 日本血管外科学会評議員 神戸大学客員教授 神戸大学医学部臨床教授 臨床研修指導医

  • 田中 裕史

    たなか ひろし

    田中 裕史

    心臓血管外科部長

    【専門領域】

    心臓血管外科 ・血管外科

    【学会専門医・認定医・その他】

    日本心臓血管外科学会専門医 心臓血管外科専門医認定機構 施設修練指導者 日本外科学会専門医 胸部ステントグラフト指導医 TAVI実施医 植込み型補助人工心臓実施医 神戸大学低侵襲外科 特命教授(2016-2018)

  • 野村 佳克

    のむら よしかつ

    野村 佳克

    心臓血管外科部長

    【専門領域】

    心臓血管外科 ・血管外科

    【学会専門医・認定医・その他】

    日本心臓血管外科学会専門医 心臓血管外科専門医認定機構 施設修練指導者 日本外科学会専門医・指導医 日本脈管学会専門医・指導医・評議員 胸部・腹部ステントグラフト指導医 経カテーテル的大動脈弁置換術指導医 血管内治療認定医 臨床研修指導医

  • 坂本 敏仁

    さかもと としひと

    坂本 敏仁

    心臓血管外科部長

    【専門領域】

    心臓血管外科・血管外科

    【学会専門医・認定医・その他】

    日本外科学会外科専門医 日本心臓血管外科学会専門医 下肢静脈瘤血管内治療実施医 臨床研修指導医

  • 河野 敦則

    こうの あつのり

    河野 敦則

    【専門領域】

    成人 心臓血管外科

    【学会専門医・認定医・その他】

    日本外科学会専門医 下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術の実施基準による実施医 がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修会修了 臨床研修指導医

  • 吉谷 信幸

    よしたに のぶゆき

    吉谷 信幸

    【専門領域】

    心臓血管外科

    【学会専門医・認定医・その他】

    日本外科学会専門医

  • 永澤 悟

    えいざわ さとる

    永澤 悟

    専攻医

    【専門領域】

    心臓血管外科

    【学会専門医・認定医・その他】

    がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修会修了

  • 仲村 匡史

    なかむら まさし

    仲村 匡史

    専攻医

    【専門領域】

    心臓血管外科

  • 永澤 園子

    えいざわ そのこ

    永澤 園子

    専攻医

    【専門領域】

    心臓血管外科

地域医療機関の先生方へ

「はり姫」 心臓血管外科では、兵庫県立姫路循環器病センターの医師が継続して診療、治療を行います。以前と同様に患者さん情報も保持しますので、患者照会を含めた紹介等歓迎いたします。

循環器領域疾患は、高齢化、生活習慣病がベースとなり、包括的な治療を必要とします。このため地域医療機関の先生方との連携または分業が不可欠です。 “もう年だから“と紹介をためらわれている循環器疾患、大動脈疾患の患者さんの紹介をお待ちしておりますので、気軽にお声かけください。よろしくお願いいたします。

対象疾患・治療法

    • 虚血性心疾患

      冠動脈バイパス術 (Coronary artery bypass grafting: CABG)

      冠動脈の狭窄や閉塞により引き起こされる狭心症や心筋梗塞に対して行われる手術です。経皮的冠動脈形成術(PCI)が適応にならない症例に行います。胸骨後面の内胸動脈、前腕の橈骨動脈、下肢の大伏在静脈を採取し、新たな血行路を作成します。

      バイパスに使用する血管は患者さんの状態により選択します。
      心臓の状態に応じて、人工心肺装置を使用せずに心臓を動かして行うオフポンプCABGも行っています。

      手術実績

      弁膜症

      心臓弁膜症は、心臓の弁が何らかの原因によって機能が低下する病気の総称です。心臓には右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋が存在し、血液の逆流を塞ぐ「弁」があります。弁膜症には弁の開きが悪くなる「狭窄症」と、弁の閉じが悪くなる「閉鎖不全症」があります。

      外科的手術

      弁形成術・弁置換術・カテーテル手術

      弁置換術:壊れた弁を人工弁に取り換える手術(生体弁か機械弁の2種類が使用可能)
      弁形成術:自身の弁を残しながら、逆流弁を修理する手術方法
      カテーテル手術:大動脈弁狭窄症、生体弁機能不全時に適応となるカテーテル手術

      ※治療に関しては心臓血管外科、循環器内科で構成する‘ハートチーム’で検討を行い、最善の治療法を提案します。

      自己弁(大動脈弁)温存大動脈基部置換術

      大動脈弁輪拡張症や大動脈解離などの疾患で大動脈基部が拡大し大動脈弁閉鎖不全症を引き起こします。人工弁を用いた大動脈基部置換術(Bentall手術)が標準治療でしたが、将来的に再手術が必要となる場合があります。大動脈基部を人工血管に置換し自己大動脈弁を温存する術式です。

      人工弁機能不全症に対する経カテーテル大動脈弁置換術

      生体弁を使用した大動脈弁置換術後はおおむね術後10~15年経過すると、経年劣化による人工弁機能低下が出現します。以前は再開胸による再弁置換術以外の選択肢はありませんでした。現在は、施設限定で外科的生体弁機能不全に対する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)の施行が認められ、当院では施行可能です。

      ※初回に挿入された弁のサイズ、種類によっては施行不可能な場合があります。
      TAVI弁の耐用年数から、年齢によっては再開胸手術を勧める場合もあります。

      手術実績

      弁膜症(大動脈基部置換術を除く) 弁置換術、弁形成術を含む

      2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
      症例数 99 114 118 108 130
      大動脈弁(単独) 36 45 47 34 49
      僧帽弁(単独) 23 39 31 25 33
      三尖弁(単独) 4 1 0 1 4
      肺動脈弁(単独) 0 0 1 0 0
      大動脈弁+僧帽弁 3 5 0 16 6
      大動脈弁+三尖弁 1 0 3 4 2
      僧帽弁+三尖弁 29 23 32 24 31
      大動脈弁+僧帽弁+三尖弁 3 1 4 4 5
    • 胸部大動脈疾患(大動脈瘤と大動脈解離)

      胸部大動脈疾患には、大動脈瘤と大動脈解離があります。胸部大動脈瘤は5.5cm以上、もしくは半年で5mm以上の拡大がある場合は手術適応となります。

      大動脈解離は上行大動脈から解離するStanford A型の場合は破裂のリスクが高く緊急手術の適応となります。下行大動脈以下の解離(Stanford B型)は降圧療法が基本です。遠隔期の大動脈イベント回避するために予防的ステントグラフト(Preemptive TEVAR)も積極的に行っています。

      手術実績

      胸部大動脈疾患内訳

      ②疾患

      ①部位

      胸部大動脈瘤

      上行大動脈から弓部、下行大動脈に出来る動脈瘤です。正常の胸部大動脈の太さは3cmです。4.5cmを超えて膨らんだ場合に大動脈瘤と呼ばれ、5-6cmを超えてくると手術が検討されます。弓部大動脈瘤の場合は、大動脈を回る反回神経が麻痺することにより嗄声(声がしゃがれる)となることがあります。

      外科的な人工血管置換術が標準治療となります。

      全弓部大動脈置換術のシェーマ

      人工心肺を使用し低体温循環停止下に人工血管を吻合して置換を行います。

      胸腹部大動脈瘤,慢性大動脈解離

      横隔膜より上部が胸部大動脈、下部が腹部大動脈です、胸腹部大動脈瘤は胸部から腹部にかけて広範囲な領域で大動脈瘤が出来ます。動脈瘤の広がりにより下記のように分類されます。慢性大動脈解離でも、解離発症後にある程度の年数を経ると解離した大動脈が拡大することがあります。

      破裂を予防するために手術が必要です。腹部分枝に対応したステントグラフトがないため、人工血管置換術が一般的です。

      胸腹部大動脈瘤や解離の進展具合により切開範囲が異なります。人工心肺(部分体外循環)を使用し人工血管に置換します。胸腹部大動脈置換術では脊髄虚血がリスクとなるため、必要があれば肋間動脈を再建します。

      Management of thoracoabdominal aortic aneurysmsより抜粋
      JTSVS 2020;160:889-97より抜粋

    • その他

      メイズ手術

      心房細動に対する外科的治療法。心房細動では心房内に無数の電気興奮旋回路が形成されています。その部位を数分間、冷凍凝固(クライオアブレーション)して、悪い電気の流れを止めて治療を行います。

      JTCVS Techniques 2023; 84-93より抜粋

      2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
      症例数 14 16 16 13 17
      洞調律
      復帰率
      79% 88% 88% 77% 65%

      胸腔鏡下左心耳閉鎖術

      心房細動では心原性血栓塞栓症(脳梗塞など)を起こすリスクがあり抗凝固療法が必要です。血栓の好発部位である左心耳を処理すると、抗凝固薬を内服しなくても血栓症や塞栓症になりにくくなると報告されています(Heart Rhythm. 2018;15:1314-1320)(Interactive CardioVascular and Thoracic Surgery. 2022; 34: 548–555)。胸腔鏡下左心耳閉鎖は小さな創数カ所から内視鏡を用いて、左心耳を直接外から確実に閉鎖する方法で、低侵襲で塞栓症の予防効果が得られることが特徴です。手術に人工心肺は不要です。

    • ステントグラフト

      ステントグラフト内挿術

      2007年腹部ステントグラフトが保険償還、2008年胸部ステントグラフトが保険償還されました。2020年からのコロナ禍,2022年病院統合の期間に症例の減少はありましたが、100例以上の治療を行っています。治療はハイブリッド手術室や、救急疾患の場合はハイブリッドERで治療を行っています。詳細は腹部大動脈、胸部・胸腹部ステントグラフトを参照ください。

      低侵襲への取り組み

      従来はステントグラフト挿入時に鼠径部を切開(3-5cm)し動脈から挿入していました。近年は止血デバイスを使用することにより創部は5-10mmまで小さくなりました。時間が経てばわからなくなります。

    • 胸部・胸腹部大動脈瘤に対するステントグラフト

      胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(TEVAR)

      下行大動脈瘤はTEVARが第一選択となります。その他の胸部大動脈瘤に対する基本術式は人工血管置換術ですが、手術侵襲に耐えられない、形態がステントグラフトに適しているなどの場合はステントグラフトに加療を行います。

      下行大動脈瘤では胸腹部移行部付近にステントグラフトを留置すると脊髄梗塞を発症するリスク(約3%)があります。弓部大動脈瘤に対するTEVARは頸部分枝を塞ぐので頸部へのバイパス手術を同時に行います。

      胸部大動脈疾患内訳(TEVAR)

      ②疾患

      ①部位

      胸腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術

      胸腹部大動脈瘤に対する治療は人工血管が第一選択となります。しかし、高齢や肺疾患があるなど開胸や手術の侵襲に耐えれない場合などはステントグラフト治療を考慮します。

      自作開窓型ステントグラフト

      胸腹部大動脈瘤に適応があるステントグラフトは日本では2024年現在保険承認されていません。人工血管置換術が第一選択となりますが、年齢や併存疾患によっては手術できない場合があります。ステントグラフトに穴を開け、腹部分枝に合わせて細径のステントグラフトを挿入し治療を行います。適応外使用となるため、倫理委員会の承認のもと治療を行っています。

      腎動脈から距離が無い腹部大動脈瘤に対するEVAR

      右腎動脈下から瘤化しステントグラフトを留置する中枢ネックがない症例。右腎動脈に相当する部分を開窓し細径のステントグラフトを留置しています。ステントグラフトの適応外使用となるため、倫理委員会の承認の元治療を行っています。

    • 腹部大動脈瘤

      腹部大動脈瘤

      腹部大動脈瘤は、動脈の壁の一部が弱くなり異常に拡張した状態のことをいいます。大動脈瘤の2/3を占め、最も発生が多い部位となります。動脈硬化に起因することが多く、喫煙、高血圧、高脂血症などの生活習慣がリスクとなります。治療法は人工血管置換術、ステントグラフト内挿入術(EVAR)があげられます。

      開腹人工血管置換術は侵襲は大きいですが、動脈瘤は無くなります。EVARは傷は小さく低侵襲ですが、動脈瘤が残るためエンドリークが起こり再治療を要する場合があります。

      上記の理由から当院では、75歳以上はEVARが第一選択としています。

      エンドリークではType IIエンドリークが最も多く、以前は10%で発生していました。
      2017年以降、腹部大動脈の分枝塞栓を積極的に行い、5%以下まで発生率は低下しています。

      EVAR時の腹部分枝塞栓

      EVAR後のtype II エンドリークを減らす目的に、分枝を塞栓しています。塞栓前はエンドリークが10%近くありましたが塞栓後は5%以下まで低下しています。

      腹部大動脈瘤治療数

  • 閉塞性動脈硬化症、動脈閉塞症

    下肢閉塞性動脈硬化症

    下肢動脈の慢性閉塞や狭窄により起こる疾患です。喫煙、高血圧、高脂血症、腎不全、糖尿病が危険因子です。症状は1.無症状、冷感、2.間欠性跛行(歩行により下肢がだるくなる)、3.安静時痛、4.壊死と進行します。
    禁煙は必須です。動脈硬化は下肢だけで起こるわけではなく、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞を合併することも多い疾患です。動脈の狭窄や閉塞の程度、部位により血管内治療か外科的手術を選択します。血管内治療は放射線・IVR科、循環器内科で施行しています。当科では外科的手術を行います。

    急性動脈閉塞症

    急激に動脈が閉塞し症状を起こす疾患です。症状として突然に下肢の痛み、冷たく、感覚が鈍くなり麻痺して動かなくなります。多くの場合は心房細動という不整脈から、心臓内に出来た血栓が飛んできて血管を塞いで起こります(塞栓症)。その他に、血管の狭い部位血栓ができたり、動脈瘤が原因で血栓ができて閉塞する血栓症、動脈の解離により血行障害が起きて起こります。

    発症から早期の治療(6時間以内)が必要です。適切な診断と治療による血行再建がなされないと、下肢の切断や神経障害による麻痺などの下肢機能を失う結果に至ります。手術は血栓除去や血栓吸引を行います。

    症例数

  • 下肢静脈瘤

    長時間の立ち仕事、肥満、遺伝や出産などにより静脈にある弁が壊れ、表在静脈に逆流し瘤化します。静脈血のうっ滞により下肢の腫脹、こむら返り、掻痒などの症状が出現します。診断は超音波で行います。治療は弾性ストッキング着用、手術となります。当院ではレーザー焼灼術、血管塞栓術などの手術を行っています。外来手術でなく1泊入院での治療を行っています。

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